防潮堤の復興

土木学会は7日、仙台市内で記者会見し、東日本大震災の被害に関する第1次総合調査について報告した。津波被害について調査団長の阪田憲次会長は「全部を(堤防など)力で押さえ込もうするのは無理だということが今回はっきりした」と語った

時事ドットコム:「津波の押さえ込みは無理」=被害を調査−土木学会

少なくとも三陸沿岸では海洋プレートの沈込帯のエネルギーは大きく解放されたと言っていいのではないだろうか。
従って、今回のような大規模な津波が100年オーダーでの近い将来に起きる可能性は低く、従来型の防潮堤の再建で津波が防げる可能性は大きいと思う。*1
既に地震が起きてエネルギーが解放された地域で、千年に一度を想定した防災対策を行うのは非現実的ではないだろうか? *2


そもそも人的被害を考えるだけでも、千年に一度を想定すれば、現在とは大きく対策規模が変わるい災害は津波にとどまらないだろう。
千年に一度を想定しなければならないなら、たとえ避難対策を優先するとしても非現実的な費用が掛かる可能性がある。
もちろん、今回を教訓として今後の防災対策の考え方を見直す動きは続いていくだろうし、そうすべきだとも思うが、あまりの被害の甚大さに慄いて、理性的・効果的な対応を行えなくなるとか過剰な対策をおこなう事で地域を疲弊させるといった事態は避けてもらいたいものだと願う。



今後対策を強化して行くべきはむしろ関東以西ではないだろうか。

こちらの地域は全然プレート境界にたまり続けている歪が解放されていないわけだし。スマトラ沖・チリ沖、それに今回と短い間隔で続けて巨大地震が起きている事は、偶然かどうか見極めている時間はないように思う。
東海・南海・東南海連動型地震の可能性は千年に一度の確率といって済ませられる問題ではなくなっているかもしれない。特に関東以西の原発は早急な対策が必要に思う。*3
また、地域住民の防災対策もすべて再考が必要だろうね。当たり前だけど。

  • 防潮堤は役立たなかったのか?

今回被害を免れた岩手県普代村のような15メートル以上もある防潮堤を長大な海岸線に築くのはさすがに無理ではないかと思う。


しかし、津波を防ぎきれなかった防波堤でも効果はあったはずだ。
おそらく今後の調査で明らかになっていくのだと思うが、防潮設備の相違が街の破壊の多寡に影響していた面はあるのではないかと思う。(もちろん津波の干渉も考えられるが、どの程度の影響を及ぼしたのかも今後の調査が待たれるところ。むりやり想像してみると、長さ500キロもの海岸線に平行する幅200キロにも震源域からの非常に長波長の津波が押し寄せたのだから、干渉によって被害が小さかった地域は相当限定的なのではないだろうか?)


岩手県釜石市の湾口防波堤は、津波によって堤頂のケーソンが破壊されたようだが、まったく役立たなかったわけではない。
市街地中心に住んでいた私の親族は、自宅三階に逃げて助かっている。二階もひざくらいの高さ程度まで浸水したが激流で二階の家財が押し流されたというわけではなかったようだ。*4
港湾空港技術研究所のシミュレーションによれば、湾口防波堤がなかった場合の津波高は13.7メートルだったはずものが8メートルにまで低減したという事だから、まさに防波堤に助けられたと言っていい様に思う。(釜石防波堤は大きな水位差や流速で被災の可能性 :日本経済新聞
報道写真などで見る限り近隣の木造建築も多くは流出せず原形をとどめて建っている。

別の親族はさらに数キロ上流の市街地(釜石は平地が狭隘なので市街地が東西に細長い)に住んでいたが、自宅は被害を受けなかった。シミュレーションによれば、湾口防波堤がなかった場合、こちらも津波に飲み込まれていた可能性が高い


宮城県石巻市でも防潮堤が生死を分けたというようなチャットがはてな匿名ダイアリーで紹介されていた。
以下はそれをまとめたブログ。
【東北地方太平洋沖地震】堤防・テトラポットなどの消波機能の有無が生死を分けた様子 - 脳内新聞(ソース版)
以下は、航空写真から検証したブログ。
宮城県石巻市・渡波海岸の防波堤は津波を食い止めた? 高解像度航空写真で検証 - Celestial Spells
チャット上で後ろから回りこんできたと言っているのは、やはり旧北上川を遡上した津波が河岸の堤防を越えたということなんだろう。土地勘がないのでチャットの内容からは良くわからないが。
被災地発:石巻市街地の被害甚大、旧北上川を津波が遡上|日経BP社 ケンプラッツ


上のリンク先のチャットで出てくる気仙沼市は、昨年のチリ地震津波でも防潮堤未整備ゆえに市街地への津波の侵入を許していたようだ。下のリンクは宮城県気仙沼防潮堤建設に関するパブリックコメント用の資料
宮城県/広域気仙沼・本吉圏/気仙沼地方振興事務所/水産漁港部/気仙沼漁港海岸
資料を見ると海面から3.7メートルの防潮堤を考えていたようだ。
今後、建設するとしても、海面から3.7メートルというのは低すぎるように思う。
少なくともマグニチュード8クラスの地震津波を防ぐ規模が欲しい。
長期不況で予算が逼迫する中、土木事業が縮小傾向にあるが、大規模な復興国債の発行なりで手当てして欲しいものだと思う。復興国債に限定し、過度のインフレを刺激しない期間で消化していくようにすれば、日銀引き受けもアリではないだろうか?
未だ輸出競争力があるうちなら、過度の円安に陥るとは考えられないし、適度な円安は輸出競争力を高めて、公共事業による刺激と共に日本経済の復興に資するだろう。

*1:次に警戒すべきは米国北西部からカナダにかけての太平洋沿岸部だったりして。こちらは日本海溝の歪解放周期とは直接的な関係はないだろうから、太平洋を越えてくる巨大津波に備えて破壊された堤防の早急な再建が必要にも思える。

*2:千年に一度と言うが、今回と類似した被害域だったと推測される千年前の貞観地震の規模の推定も困難だし、千年前の貞観地震を今回、大きく上回った可能性もあるだろう。
地質的痕跡から、千年間隔で仙台平野が大規模な津波に襲われていたという推定もあるようだが、より広範囲の地質学的な調査を待たなければ、同規模の地震津波の今後の地震間隔の推定は難しいだろう事は留意。

*3:所詮素人の無責任な予想だけど、中央構造線だって活性化するかも?

*4:一定の効果はあった釜石の湾口防波堤 :日本経済新聞