はしかと狂牛病とこんにゃくゼリー

『ワクチンが足りない』―日経ビジネスオンライン―

新型インフルエンザウイルス(H1N1型)がらみのニュースでワクチン供給が間に合わないという記事が出てますね。

日本でも感染予防が急務だ。だが“武器”であるワクチンの供給不足が大きな問題として浮上している。舛添要一厚生労働相も「ワクチンの製造ラインに限りがある。季節性インフルエンザのワクチン製造を一時停止しても優先したい」と発言している。

ワクチンの開発と製造に時間がかかるのは世界中どこでも同じ。製造能力が大きければ、季節性の製造を止めなくても、新型用のワクチンを作ることはできる。問題は日本の場合、製造能力が小さいことだ。毒性の強い鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)に備えたワクチンの製造体制も危うい。

 北海道大学の喜田宏教授は、「厚労省のワクチン行政が問題」だと言う。日本はこれまで、世界の流れに反するワクチン政策を取ってきた。世界が感染症対策としてワクチンの予防接種を強化しているのに、日本は予防接種に及び腰になっていった。


ということで、過去の訴訟に続けざまに敗訴したこととか、そのためワクチン接種を任意にしたため市場規模が小さくなったこととかを解説してるんですが、一昨年、はしかが流行った際に、海外では、このワクチン接種の副作用の問題はどうなってるんだろって検索して某翻訳掲示板に投げた記事があるんで同じタイトルで再掲します。(既に投稿した掲示板自体が無く、データも削除されてしまってるのではないかと思いますし)

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最近、日本では「はしか」が流行しているようですね。

日本からアメリカに帰国した男性が発症して二次感染を引き起こしたとか(読売新聞)、全国の小中高校、大学で休校が相次いでいるとか(読売新聞)、いろいろニュースになってます。


「はしか輸出国」の汚名返上できるか

 乳児死亡率が世界最低の日本は医療のレベルが最も高い国と思われがちだ。ただし、はしかを含む感染症予防には当てはまらない。米国感染症科専門医の五味晴美・自治医科大学付属病院准教授は「日本のワクチン接種状況は北朝鮮と同レベル」と手厳しい。

 実際、米疾病対策センター(CDC)は、はしか感染者の流入元である日本を「はしか輸出国」と名指しして、警戒心を強めている。

 そんな汚名を着せられたままでいるのは、日本が感染症予防の基本であるワクチン接種を徹底できていないからだ。はしかの征圧に成功した国々はワクチンの2度接種を義務づけている。一般的にワクチンを1度接種しても数%の人が免疫を獲得できない。免疫ができた人でも1割はその効果が弱い。そうしたワクチンの弱点をきちんと理解しているからこそ、2度接種を義務づけているのだ。

 日本では2001年の大流行を受け、1歳児におけるワクチン接種率は95%を超えた。この効果で10歳以下の発症率は大きく下がったが、接種を徹底できていなかった高校生以上で発症率が高まってしまった。

 ワクチンの2度接種も始まったばかりだ。世界保健機関(WHO)などからの度重なる勧奨を受け、日本でも2006年度からようやく就学時前の再接種が導入された。2度接種を受けた世代が大多数を形成するまでは、はしかの流行に再度見舞われるリスクがつきまとう。

 日本がワクチン接種で後手に回ってきたのはリスクばかりが注目されてきたからだ。1980年代から90年代にかけて、ワクチン接種による副作用が相次いだことがあった。その結果、94年に予防接種法が改正され、ワクチン接種が義務から国民の努力義務、つまり任意制度に変わってしまった。

 ワクチンも医薬品であるため、副作用というリスクがつきまとう。しかし、感染症の流行を抑えられるというベネフィットを勘案すれば、リスクを大きく上回る。そう判断した世界の潮流に乗り遅れたままでは、ワクチン後進国の汚名は返上できない。

日経ビジネス 2007年6月11日号



これで、連想したのが、以前問題になった米国産牛肉輸入再開問題に関する米国農務次官の発言。
狂牛病の危険は交通事故よりきわめて小さい云々というもの。

牛肉を食べることで得られる利益は、リスクを上回るのか。
それは国家が規制すべきものか、個人の選択に任せる性質のものか?

ちなみに、まれに死亡事故を引き起こすこんにゃくゼリーは米国では輸入禁止だそうですな。
ダイエット食品のベネフィットとリスクは(ry

日本では、80年代の終わりから90年代にかけて、麻疹・流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)・風疹混合ワクチン(MMR、新3種混合ワクチン)が大勢の子供に「無菌性髄膜炎」を起こし、死亡事例もあったことなどが大きく報道され、特に子供を持つ親の間で大きく問題にされ、ワクチン接種が義務でなくなったという経緯があります。
2003年にはMMRワクチン訴訟で原告三者のうち死亡した男児と障害が残った女児の二人について国家責任を認める判決が大阪地裁でありました。(のこる一人、接種後に死亡した男児はインフルエンザだったとして2006年敗訴確定)

Wikipediaによると無菌性髄膜炎が予想された発生率より大幅に高かったのがワクチン接種義務の廃止の原因であり、「これは、命にかかわったり後遺症を残すことは極めてまれである一方で、流行性耳下腺炎の合併症としても無菌性髄膜炎脳炎が少なからず見られる(こちらもおおむね軽症だが)
このため、諸外国ではムンプス〔おたふくかぜ〕ワクチンの副反応は、日本でのようには重視されていない。」というような書き方がされています。

そこで気になったのが死亡例。

海外ではないのかなあと検索してみたところ、出てきました。

PEDIATRICS Vol. 101 No. 3 March 1998, pp. 383-387


Acute Encephalopathy Followed by Permanent Brain Injury or Death Associated With Further Attenuated Measles Vaccines: A Review of Claims Submitted to the National Vaccine Injury Compensation Program

永久的な脳障害か死にいたる急性脳症が、より弱毒化させたはしかワクチンに関連している:
国家のワクチン災害補償プログラムに提出された請求のレビュー

           Received Jul 30, ;1997; accepted Sep 23, ;1997.

From the Division of Vaccine Injury Compensation, National Vaccine Injury Compensation Program, Health Resources and Services Administration, Public Health Service, Rockville, Maryland and the Office of the General Counsel, United States Department of Health and Human Services, Rockville, Maryland.

目的。 永久的な脳障害の残る急性脳症または死の原因が、より弱毒化させたはしかワクチン(Attenuvax or Lirugen, Hoechst Marion Roussel, カンザスシティー, ミズーリ州)、おたふく風邪ワクチン(Mumpsvax, Merck and Co, Inc, ウェストポイント, ペンシルヴァニア州)、または風疹ワクチン(Meruvax または Meruvax II, Merck and Co, Inc, ウェストポイント, ペンシルヴァニア州)、はしか・風疹混合ワクチン(M-R-Vax または M-R-Vax II, Merck and Co, Inc, ウェストポイント, ペンシルヴァニア州)、はしか・流行性耳下腺炎・風疹混合ワクチン(M-M-R または M-M-R II, Merck and Co, Inc, ウェストポイント, ペンシルヴァニア州)の投与に関連している証拠があるかを確認する。筆頭著者が国家ワクチン被害補償プログラム(National Vaccine Injury Compensation Program)に提出された請求を見直した。

方法。 1970年と1993年の間にこれらのワクチンの最初の投与量が包含評価基準を満たしており、そのような大脳障害を発症し、15日以内に病因が決定されなかった子供のカルテを特定し、分析した。

結果。 単独か混合のはしかワクチンを受けた合計48人の子供(生後10〜49カ月)が包含評価基準を満たした。 8人の子供が死亡した。そして、残り〔40人〕には、精神的な退行、遅れ、慢性の発作、 運動麻痺と感覚障害、および異状行動があった。 神経学的徴候もしくは症候の開始はランダムでなく、統計的に有意な確率で8〜9日目に起こった。 流行性耳下腺炎または風疹ワクチン単体の投与の後に発症したケースは同定されなかった。

結論。 このクラスタリングから、はしかワクチンと大脳障害との間にはしか免疫のまれな合併症に関して因果関係が存在する事が示唆される。

http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/abstract/101/3/383



…けっこう、被害が出てるみたいです。
これら三種の感染症の被害リスクとワクチンのリスクの比重とか、感染症の流行による社会的損失。そういったところから判断して接種が強行されてきたというところでしょうか。
ここで面白いのがワクチン被害に対する国家補償の機関(National Vaccine Injury Compensation Program)があるってところですね。
たぶん、公益のためのワクチン接種による訴訟リスクを政府が引き受けるということなんでしょう。
9.11後、テロ対策として軍人と医療関係者に行われた天然痘ワクチン接種の副作用のよる被害もここで補償したんでしょうか。(http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20030403302.html
日本なら、あらかじめ被害を避けられないものと想定して補償機関を作るとは何事だとか、補償すれば済むと思ってるのかと非難されそうな気もしますが。


この流行で、障害を負ったり死亡したりした人はでてるんでしょうかね。
やっぱり、日本人のメンタリティとしては、病気で死ぬのは人の定めだが、人為で死ぬのは許せないということなんでしょうか。