タバコの害は2シーベルト。僕らはみんな加害者かも

東京電力福島第1原発から流出した放射性物質放射能)による健康被害への不安が広がるなか、放射線による発がんリスクが出始めるとされる年間100ミリシーベルトを浴びた場合、そのリスクは、受動喫煙や野菜不足とほぼ同程度であることが30日、国立がん研究センター(東京)の調べで分かった。

【放射能漏れ】年間100ミリシーベルト被曝の発がんリスク 受動喫煙・野菜不足と同程度 - MSN産経ニュース

なんで新聞ってのはこう、既知の事項を新事実のように書くのかね?
国立公文書館で公開されてた文書を、研究者が発見!とか書くのと同じノリか?


まあ、これによると、喫煙の害は年間2000ミリシーベルトなんだそうな。


この「ニュース」に対しては、えらい肯定的なブログとか、逆に頭ごなしに否定的なブログとか見かけるんだが、どうも確率的事象の扱いというか考え方ってのにやっぱり慣れてないのかなと感じる。この「ニュース」記事を眉唾!と断じながら同じ文章の中で、政府の政策に批判的に見える他のプロ文筆家の文章を褒めちゃうとかね。その文も確率事象である事を認めているのは同じなんだが。その上で保守的に考えるべきだと書いてるわけで。


いっそ、ここは逆にさまざまな事柄の健康リスクをシーベルトで言い換えるってのはどうだろう?
もうみんなうんざりするくらいシーベルトはお馴染みになってることだし。


「君、運動不足は1000ミリシーベルト(/年間)だよ」って具合に使う。

「おまえ、いつまでも身を固めないでふらふらしてると3000ミリシーベルトだぞ」ってね。

車で毎日20キロを通勤してると、貰い事故で亡くなる確率が、200ミリシーベルト/年、とか(もちろん、数値は適当)
最近のサ○クスのお弁当シリーズは、動物性蛋白と精製度の高い炭水化物ばっかで構成されてるんで発ガンリスクが500ミリシーベルト(/年間)増加だよ、みたいな。(同じく)


閾値*1と線形説*2に分けて解説する方法の問題点は、人はそれぞれ抵抗力にも個性があるという点。
元々遺伝的に発ガンリスクが高い人は、ガンマ線の一照射がガン化の最後の*3引き金を引いてしまうかもしれない。
おそらく真実は閾値説と線形説の間のどこかにある。
だから、福島の事故が原因の一部になり、癌になる人は必ず出てくるのではないだろうか。
だけど癌死亡率の増加というわかりやすい形になるかどうかはかなり怪しい。国民の半数がいずれ癌になるこの国でそれが統計にうずもれてしまう可能性は高い。


その程度で済んでほしい。
3月15日の未明から福島上空を通過した高気圧によって南北に撒き散らされた放射線の影響は。
そして、その程度で済んだ場合、因果関係の立証と保障の問題はとても難しいものになるだろう。


1998年に、前年まで2万人前後で推移していた年間の自殺者数が1万人増加して3万人台になった
以降十数年、自殺者数は高止まりしたままだ。
この年はその前年から翌年にかけていろいろな事があった。消費税率アップ、拓銀破綻、山一證券破綻、アジア通貨危機、労働者派遣法改正…。
もしこの長期不況が、丹羽春喜先生などが言っていたように通貨供給量の増大させる政策で解消する需給ギャップだけの問題だったとするなら、単にお金を刷ってばら撒いてインフレにするだけで解決する問題だったとするなら、政府日銀は10万人を殺したということにならないだろうか?


今般の定期点検休止原発の再開問題がいろいろ取り沙汰されている。
ひとつ間違いがない事は、このまま休止中の原発が再開されなければ、国のGDPを押し下げ、景気を冷やし、製造業の国外移転を即し、ひいては年間の自殺者数を維持、あるいは悪化させるということだ。
経済のしわ寄せは弱者に一番強く襲いかかる。
因果関係は立証できない。
さて、これらの無名の死に対して、政府には責任はないんだろうか?


フクシマが起きるまで安閑と電気を使っていた我々が簡単に原発再開反対と叫ぶ資格があるのだろうか?


事故の代償が大きすぎる現在の原発依存から脱する工程を考えるのは大切だろう。
だが、感情に任せて休止原発を再開させないというのでは、我々自身が加害者になる恐れがあるのではないだろうか?

【社説】国の原発再稼働要請 未来図を国民に示せ

2011年6月21日

 現在停止中の原発について、菅直人首相が「安全対策が適切に整ったので、再稼働すべし」という方針を明らかにした。脱原発は、本気でしょうか。

 「ありえない」。福島から、原発周辺の住民から、そして多くの自治体の長からも、驚きの声が相次いだ。

東京新聞:国の原発再稼働要請 未来図を国民に示せ:社説・コラム(TOKYO Web)

*1:遺伝子修復機構や活性酸素除去機能、アポトーシスなどの人体の様々な防御機構が働くことから、ある一定以下の低線量放射線は人体に害を及ぼさないとする説

*2:統計的に解析できる高線量放射線での発ガンリスクの推移を、統計誤差にうずもれてしまう低線量側に外挿して考える――どんなに小さい放射線でも発ガンリスクは計算できると考える

*3:癌化は今のところ一遺伝子だけの変異では起きないと考えられているよね。何段階かの変異を経ないといけない